世界を相対的にナビゲートする人たち
There is nothing settled, nothing staid in this universe.
—Virginia Woolf
「この世で不変で安定したものなどない。」
ヴァージニア・ウルフ
海
ミクロネシアは昔から、空間を固定の上下ヒエラルキーとしてではなく、総合関係を持つネットワークとして把握している。ミクロネシアでは島と島の間をナビゲートするのに、その島自体が動かなくても、季節や環境によってルートが変わる。そのため彼らは絶対的な地図ではなく、環境のパラメータの変動に対応出来るスティックチャートを使っている。海は相対的な秩序で出来ているのだ。
琴
絶対的な音程のピアノと全く異なる琴は、相対的な音楽領域の中の音楽をつくる。一つの音も決まっていない原点で、琴の奏者は、琴柱を動かしながら初めて演奏する曲の領域を定義(調弦)する。琴にはたった13本の弦しか無いのにも係らず、曲目の調弦はシームレスでかつ無限に、これから演奏する曲を構成している音の組み合わせを作り出す為に、それぞれの曲目に合わせて調弦を行う。
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20世紀の初期から世界を定義していたモダニズムは、分野ごとになぜこんなに異なった結果になったかと不思議に思わざるを得ない時がある。最初から固定概念を破っていた文学や音楽と比べれば、建築は自由の開放性を定義することにあたって均質的世界を超えたことは殆どなかった。 自由を探し求めた末世の中の多様性を失ってしまった。
だが、この世の中の多様性や複雑性は単純なルールに基づき、相対的に変動していくものである。原点に戻って、もう一度周りの相対総合関係を探求しよう。
FB, 2013
magazine
Bulletin – The Japan Institute of Architects
Title
世界を相対的にナビゲートする人たち
Publisher
year
2013
Issue
Vol. 244, 7/2013
Language
Japanese