太田市文化交流施設

群馬県太田市, 2014

群馬県の太田市は、複雑な歴史を持つ場所だ。江戸時代は、江戸と日光を結ぶ通り道として不釣り合いなほど多量の文化遺産が流れ込んだ。

第二次世界大戦前から大戦中にかけて、自動車製造会社の前身が悪名高き戦闘機を製造していた。この会社は現在も太田市で有数の雇用者である。農業生産物と自動車工業のお陰で太田市は周辺地域の中でも最も裕福な場所の一つとなった。そんな首尾一貫した太田市も無計画な介入に身を委ねたようだ。

そのような介入の一つが、中央駅北側広場における文化センター建設の計画である。街の中央というロケーションゆえに、勝手気ままに立ち並んだビル群によりかえってチャーミングとも言える街並みが形成されていたが、そのような無規制を正そうという妥協案的な再開発が予定されているエリアだった。

この駅前中央広場に建設する図書館とミュージアムを合体させた(図書館兼ミュージアムであり、図書館でもミュージアムでもない)ハイブリッド的ビルの設計を募集するために全国コンペが開催された。

エコトーン(移行帯)とは、2つの生物群系の間の移行の場である。[1]二つのコミュニティが出会い、交わる場所。[2] 幅は広かったり狭かったり、ローカル/局所的(原野と森林の間のゾーン)だったりリジョナル(森林と草原の間のエコシステムの移り変わり)だったりする。[3] エコトーンは、広域の二つのコミュニティーが徐々に交わる場として現れることもあれば、鮮明な境界線として示現することもある。
—ウィキペディア

都市的無秩序という既存条件を否定するのではなく、これを利用する方法として我々が提案したのは、「前からそこにあってもおかしくなかったね」と思えるような幾つもの箱を、地上5メートルの高さに新たに設置したレイヤー(層)を用いて繋げることだった。

これらの箱がミュージアムと図書館の物理的機能を収容する一方で、箱と箱とをつないでいる新たなレイヤー(層)によって創造された空間が、クロス・プログラミング(複数の用途)に柔軟に対応する連続した空間となる。屋根と天井という一人二役であるこのレイヤーは、平凡な箱空間に新たな意味を与えるエコトーンともいえよう:このレイヤーにより、平凡な箱空間が、幾層にも折り重なり万人にアクセス可能なパブリックスペースに変身する。

ここでは、「私的建造物」対「公共道路」という対立式が消滅する。屋根の下には、都市環境が取り込まれ、自由に出入りできる都市のホワイエが生まれる。屋根の上では大型都市庭園が新しい領域として生まれ変わる。市はなぜか時代錯誤的な政策を実施ー駅周辺の主要な樹木の伐採を決定ーした。そんな太田市にとって、この庭園は、必要不可欠な人造ウィルダネス(野生)の場を提供する。

我々の設計では、「綺麗に手入れされた緑=心地よいパブリックスペース」という何故か周知となった概念を覆し、この場所だからこそパブリックスペースに開かれた多面的可能性を提案した。新しいレイヤー(層)を投入することの根幹的意義は、公共プログラムを並列し、織り交ぜるための二重構造を投入することにある。公共の「屋根/天井」の二重構造が、ミュージアムと図書館のハイブリッドという存在を超えて、空間と機能の複雑さに新たな意味を与える。

(翻訳:山尾暢子)

 

群馬県太田市, 2014

Type

公共, 文化施設, 図書館, 美術館・博物館

Status

コンペティション

Team

フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 山脇ももよ, 宮本哲, 髙橋卓, A. ヴァクセレール

構造: OAK (新谷眞人)

環境: 環境エンジニアリング (和田隆文)

Size

延床面積: 2,600 m²

Structure

鉄筋コンクリート造, 鉄骨造
太田市文化交流施設
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