三番町の家

江戸城からどんどん離れて細分化され、占拠されていく土地に見られる小規模なものとは異なり、本来の江戸の中心地の一部である番町は、昔から住宅街としての気品・寛大さを漂わせており、その本質は今でも東京のいたるところに存在している。それとは逆に、ここの狭さは奇妙で異質である。都市主義者の視点からだけでなく、ここに小さな戸建て住宅は滑稽にも見える。

下へ 江戸城の堀

土壌検査によって、この土地の歴史が明らかになった： 私たちが立っているこの土地は、江戸城の堀を掘削する際にここに廃棄された土砂である。3～4階建ての小さな建物でも、杭は20メートル下に打ち込まなければならない。明るい兆し： 狭い敷地の許容床面積を最大化する主な方法である）地下階を設けることで、回避できたはずの杭打ちなどのデメリットが生じない。
私たちは、この歴史的コンテクストにおいて皮肉なジェスチャーを提案する：城の堀の土は、家族の温泉のために再び掘り返される。

上へ 天空率

特に、隣接する大きな建物に囲まれた小さな敷地では、光と眺望を得るためには上へ上へと登っていかなければならない。近隣の大きな建物（この場所の歴史的背景を反映している）は、私たちが高くすることができることを示唆しているが、ゾーニング法では、狭い（わずか4メートル幅の）通りに面したこの小さな敷地では、かなりの高さを達成することはできない。2003年、非効率的で建設コストが高くつくことが多い斜線形状に対抗するため、日本の建築基準法が改正され、建築家は新たな手段を手に入れた：『天空率」と名付けられたこの制度は、通りから見える「空」の総量が少なくとも同じであれば、建物の一部が仮想の「通りと影」の線からはみ出すことを認めるものである。
従来の規制では、上層階に行くほど間取りが小さくなってしまうが、スカイファクターでは上層階でより大きなボリュームを追求する自由が与えられる。敷地には明確な背後地（東端）があり、残りの270°のパノラマを探索することができる。
私たちは、北、西、南の各エレベーションに異なるビュー・アングルを見出させる戦略を考案した。ルーフテラスを含む各フロアは、垂直の切り欠きに沿って折りたたまれた帯のようである。天空率による制約の中で最適解に到達するために、エッジは独立して後退したり突出したりする。

天くうムシ

独自のスカイファクター探索アルゴリズム「天くうムシ」を開発し、進化的最適化に組み込むことで、予想外のボリュームの可能性が無数に生まれました。
最終的な結果は、同じ目標と制約を共有する一連の研究のスナップショットである：上層階の床面積を最大化する、敷地の限られた方向の眺望を捉える、プログラムの編成と配分を最適化する、構造的労力を最小化する。
柔軟なフィードバック・サイクルの中で、下層階の小さな変化でも上層階に大きな利益をもたらすことができるため、東京の平均的な一戸建て住宅によく見られる小さな上層階に代わる、より均等に分散した床面積の解決策を探ることができた。その結果、日常生活が行われるべき場所、つまり採光と眺望が最も良い上層部に、より多くのスペースが確保された。
全部で4つの階層とルーフガーデンがある： 地上階にはエントランスとガレージ、地下にはスパとゲストルーム、その上にはベッドルーム（2階）、そして最上階には屋上の庭に直接出入りできるリビング・ダイニング（3階）がある。

頓挫した結末

都市のコンテクストから読み解き、プロジェクトを創ることよりも、経済的事由が優先し、プロジェクトは中止された。私たちがこの制限された敷地で可能なことを最大限に創り出したにもかかわらず（あるいはだからこそ？）、建物が十分に利益を生むものではないという結論が下されたのだ。
残されたのは、東京でも有数の高級住宅街の裏通りにある異質な建物の物語である。そして、この敷地が小さな建物で占められるのか、それとも小さな区画が大きなブロックに統合されるまで空き地のままなのかという疑問である。