中富良野のW邸
北海道、中富良野町, 2022—2024
「かつての昔の都市のように、現在は田舎が変化のきっかけになりつつある」
-FB、2007年
ネット・ゼロを超えて
中富良野のW邸は、消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーの方が多い。直感に反して、この解決策はいわゆる建物をコンパクトにすることではなく、分割することにある。
東京に住む若い家族連れの施主は、田舎から都会への移住というトレンドに逆らい、富良野高原の西端に新しい家を設計するようFBAに依頼した。
彼らの計画はとても大きなものだ。地域の電力網から独立した建物で、少なくとも消費するエネルギーと同じだけのエネルギーを生み出す。ネット・ゼロ。
(実際建設された結果はさらに上を行く: 中富良野のW邸は1年を通して、消費するエネルギーのほぼ2倍のエネルギーを生み出している。)
農地の効率性
こうした大きな目標の一貫として、彼らは農業が盛んな地域の真っ只中に土地を購入した: 田舎のロマンチシズムではなく、農地の有効性を求めた。
元々は農家の納屋があった場所だが、隣は田んぼとアスパラガス畑、用水路と道路。私たちは開けた場所にいる。唯一の背景は、(ほとんどが人工的に整えられた)自然なのだ。
植物のように
1923: 「家は住むための機械である。」(ル・コルビュジエ)
2023: 「家は(ともに)暮らすための植物である。」
施主は、農家の納屋に似ている本質に焦点を当てたシンプルな木造建築を望んでいる。しかし、納屋の 「本質 」は、道具を保管・保護するというかなり単純で受動的な役割ですが、今回はもっと複雑な構成である:周りにある、自然のエネルギーのみで、家族の日常生活を支援する場。
この建築は、納屋ではなく作物を計画するよう求められているかのようだ: 植物のように、積極的に周囲と関わり、環境に適応し、利用可能なものに到達する建築。
眺望: パノラマミックス
敷地の周りは農地とインフラ: 畑、用水路、道路、送電線に囲まれている。
背景はもっと絵になる: 富良野高原の山々。東の十勝岳連峰と北西の丘陵地帯の間に、南西の雄大な富良野西岳がある。
水源:ヒートポンプ
敷地内には、年間を通して流量と温度が一定な水源(古い井戸)がある。この自然の水源をヒートポンプで動かすことで、床暖房と家全体の温水を供給するのに十分なエネルギーを生み出すことができる。
太陽:ソーラースキン
平坦で開放的な富良野盆地は、太陽光を利用するのに理想的だ。設計過程の最後に最も適した場所を探して、太陽光発電パネルを設置する通常のアプローチとは異なり、アクティブとパッシブの両方の太陽性能が最初から設計の中核となる基準となっている。つまり、太陽光発電パネルは後付けではなく、建物のソーラー・スキンも構成している。均質で硬質な黒い外壁が、対照的にソフトな木製の内装を包んでいる。このソーラースキンは、太陽エネルギーを直接取り込むだけでなく、開口部のレイアウトにも同様に重要な役割を果たす。しかし、ソーラー・スキンに開口部をあけるのではなく、私たちの戦略はもっと根本的だ…
コンパクトを割砕く
概要と予算に従い、バナキュラーな納屋を思わせるコンパクトなヴォリュームから始まる。
初期の検討では、多角形や枝分かれによって3つの主要な方向へ直接向かおうとしたが、最終的な結果につながる案は、より粗野かつ繊細なものとなる:
コンパクトなヴォリュームを2つに分割し、それぞれを回転させることで、細長いヴォリュームの短辺が東と北西の山々に完全に面するように開き、そこに南西にある富良野のスキー場方面を見据えた中間空間領域を設けた。
以前のスタディとは異なり、割砕くことによってコンパクトなボリュームのシンプルさを保っている。この割砕くことによる新しい空間は、コンパクトなボリュームの内部を、均質で硬質な外部とは対照的な、壊れやすい柔らかい内部世界として見せる。まるで植物の維管束(道管や師管)が完全に断ち切られていないかのように、内部木構造が2つのヴォリュームの間をつないでいる。
この家の核となる中間空間は、建物の気候を調整する重要な役割を担っている: 垂直方向、水平方向、人間的な動き、インフラ的な動きなど、すべての動きが通過する家の要である。元のシンプルなボリュームの東端と北西端に加え、南西方向にも開口部を設けている。
成長
不安定な建設費を考慮し、施主はプロジェクトを段階的に分割する可能性を検討するよう求めていたという当初の要件だった。大きなシンプルなボリュームを分割するというアイデアがそこから生まれたのが、最終的にその要件が放棄された。
第1段階と第2段階を一緒に建設することになったが、第3段階(倉庫兼作業場用の小屋)の設計と建設は、本来は第1段階が完成する前から始まっていた。
大きなボリュームを分割して回転させるという戦略は、別館が全体の整合性を保ち、それを崩さないための基礎となる。
道路に平行し、母屋よりも高さの低いこの別館は、逆転の発想で設計されている。3つの黒いボリュームの最後ではなく、最初のボリュームのようであり、東と南に向かってさらに紆余曲折しながら成長していく…
プロトタイプ
恐らく、より大きな疑問が残ってる。都会を離れて田舎に引っ越すことは、持続可能な未来に向けた現実的な道なのだろうか?都市化による高密度化は、人類の二酸化炭素排出量を削減するための最も直線的な道であることに変わりはないが、25年後には約70%の人間が地球の国土のわずか1%に暮らすことになると考えると、社会的に持続不可能である。田舎を求めることは理にかなっているが、それは一人当たりの二酸化炭素排出量を増やさない方法でなければならない。重要なのは、自然環境を搾取するのではなく、いかに利用するかということだ。
田園地帯の開放的な環境は、試したり探検したりする自由を与えてくれる。かつての都市がそうであったように、田園地帯は新たな変化のきっかけとなりつつある。しかし、都会への移動がすべてを捨て去り、都会に新しいものを求めたのに対し、田舎への移動は、テクノロジーのスピードによって可能になった都会との便利なコンタクトを、いつでも呼び出せる状態に保っている。
田舎から学ぶ機会は有望だ。周囲の環境の積極的な一部となり、消費量以上のエネルギーを生み出すW邸は、(拡張可能な)プロトタイプにも考えられるでしょう。
北海道、中富良野町, 2022—2024
Type
Status
Team
フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 大澤祐太朗, 島玲旺, C. バウムガーテン
構造: 川田知典構造設計 (川田知典)
コンサルティング: ヤン・ヴァルツェヒャ (エネルギーシステムインテグレーション)
施工: 株式会社橋本川島コーポレーション
環境: 株式会社 アリガプランニング (地中熱設備工事)
環境: 株式会社 クリーンエナジージャパン (太陽光発電設備工事)
Size
延床面積: 163 m² (+35m² 倉庫)
Structure






























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