昇
東京都新宿区余丁町, 2021—2023
東京、抜弁天に続く坂を登っていくと、頂上あたりに、一見して壮大な歴史とはかけ離れた質素な佇まいの厳嶋神社が見えてくる。応徳3年(1086年)、関東平野を横切って陸奥の国を目指す源義家の一陣が宿営としたのが、まさにこの峠だったと言われている。義家は、この辺りで最も高い地点である地の利を見て取り、迫り来る危険をいち早く察知するにはもってこいの場所としてこの地を選んだ。当時は富士山を一望できた絶景地点。一年後に凱旋した義家が、この場所に厳嶋神社の礎を敷いた。本プロジェクトの建築用地は、この厳嶋神社の隣にある48平米の小さな台形の土地。
突出
48平米の80%という最大建築面積に、レストランの他、何軒かのアパートを盛り込むという野心的な概要から立ち上がった作戦は明瞭だった。それは、この最大建築面積を最大限に活かし、そしてそのような自由な空間を獲得するためには、垂直方向の可能性を最大限に探る必要があるということだ。
昇り
施主はその困難を予測したかのように、この用地が決まるずっと前からプロジェクトに「昇り」という名前を付けていた。我々の課題は、その方法を如何にして見つけるか、という現実的なものだった。従来ならコンパクトなコア部分を中心とする巡回構造を提案するところだ。だがここで我々はあえて逆の発想を狙った。コアを度外視し、外郭部に沿って上下左右に階段を巡らせるという構造を提案した。建物に足を踏み入れた者は、まるで下町の路地に迷い込んだような感覚に陥る:大規模都市と無数の住宅を結ぶ、人々の憩いの場、事実上のロビーのような役割を果たす東京の路地空間。それがこの建物の在り方だ。
発見の旅
一見して単純なボリュームだが中身は複雑だ。階段でできた道筋が異なるポイントで階層同士をつなぐ。一つとして同じ階はない。垂直方向の自由空間が欲張りな中身を可能にした。十分な階高を獲得できたため、階段ボリュームとスラブの間に生まれた空間に、期待以上の用途を盛り込み、「平凡」を超えたスケールを実現した。この構造の複雑さは、茶室の在り方に似ているとも言える。限りなく制限された小空間から、意図的なディテールを入り口にして大宇宙への発見の旅に誘う。
外皮
このような空間の曖昧さと多価性はファサードに現れている。建物の規模を考えると、建物の外皮が構造的な負荷を背負うことは自然であり、有益でもある。潜在的な開口部をできる限り大きく開いたところからスタートし、デザインが進むにつれ、必要性と要望に柔軟に応えつつ、多孔性の度合いが進化していった。幾つもの制限要素(構造、眺望、採光、換気、予算など)が競い合い、譲り合いながら、最良の解決策を導くグラウンドとなったのがファサード部分だった。
眺望
1086年には自然の中に佇んでいたこの一片の土地が、今では巨大都市東京のど真ん中に在る。かつて富士山を見渡せた高台だというが、その眺望も弛まぬ成長を続ける大都市のビル群に遮られて久しい。しかし、大都市を埋め尽くす建造物の塊たちを突き抜けるように走る道路の上にふと現れる見通しの良い直線空間が、富士に代わって都市東京の広大さを見せつけてくれる。9世紀前に義家の眼が一望した景観はもうここにはない。しかし、この建物を回遊する階段を昇りながら、都市の縁取りを視線に納めるにつれ、かつての地勢的な優位性は、今日にも引き継がれていることを実感するのだ。
(翻訳:山尾暢子)
東京都新宿区余丁町, 2021—2023
Type
Status
Team
フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 重村茉代, 山下ジロ, 陳協志, ジェン ピーラ, C. バウムガーテン, ヨアキム ナイス, 島玲旺, 劉博豪, 高儀 佳奈 (研修生)
構造: 川田知典構造設計 (川田知典)
施工: 株式会社 辰
施主: PAD INVEST srl
Size
延床面積: 185 m² (+38 m² ルーフ・テラス)
Structure
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